長くダイビングをしていると、たまに名言に出会うことがあって、その一つが「どうせスズキ目」。
浮遊感とジンロをこよなく愛する、魚には興味のない近眼のマニラダイバーさんの名言です。
確かに、「あの魚何?」という初心者への質問に「スズキ目のなにか」という答えは、たいてい半分正解となっていました。魚類最大のグループだったスズキ目が、いつのまにか消えつつあるという噂を聞き、調べてみました。
多くのダイバーにとって、「スズキ目」という魚類の分類グループは、一度は耳にしたことがあるでしょう。スズキ目(Perciformes)は、長らく魚類で最大のグループとして扱われ、私たちが海で出会う身近な魚の大半を含む存在でした。
ところが近年、このスズキ目が大再編(いわゆる「解体」)されつつあるという驚きのニュースが飛び込んできました。なんと、グループ名の由来でもある「スズキ(鱸)」という魚自体が、スズキ目から外れてしまったというのです。
いったいスズキ目に何が起きているのでしょうか。本記事では、その背景にある分類学的な発見と変遷を追いながら、ダイバーである私たちにとっての意味を考えてみます。
再編の背景:巨大すぎた「スズキ目」
かつてスズキ目は、魚類全体の約1/3(推定1万種以上)を占めるとも言われる超巨大グループでした。脊椎動物全体で見ても類を見ない規模であり、「いわゆる魚らしい形をした魚」は、ほとんど全てスズキ目に属していたのです。
さらに、ハゼ(ハゼ科)やタチウオ(太刀魚)、ベラ(ベラ科)、シロギス(キス科)といった一風変わった体型の魚でさえ、スズキ目に含まれていました。言い換えれば、強い特徴がない魚はとりあえずスズキ目に放り込んでおく――そんな分類上の「受け皿」、あるいは「ゴミ箱」のような役割を果たしていた側面すらあったのです。
実際、旧来の広義のスズキ目には、生態や形態、進化の背景が異なるさまざまな魚類が一括りにされていて、形態的類似性だけでまとめられた便宜的な集合群、いわゆる「ゴミ箱分類」だと指摘されていました。
このように寄せ集め的だったスズキ目ですが、分類学の世界では1990年代後半頃から、その問題点が顕在化し始めました。当時、新たに導入され始めたDNA解析(分子系統解析)の手法により、「スズキ目」は進化的に見て単一のまとまり(単系統)ではない可能性が指摘されたのです。
見た目は似ていても、実は系統がバラバラである――そんな驚きの事実が少しずつ明らかになり、魚類学者たちの間で、スズキ目を再編成する必要性が議論され始めました。
主な時期と変化:スズキ目再編の流れ
近年までのスズキ目再編の流れを、大まかに振り返ってみましょう。
・1990年代〜2000年代初頭
分子系統学の黎明期。DNA解析の初期研究から、スズキ目が従来考えられていたような自然なグループではない(単系統群ではない)可能性が示唆されました。この頃から、専門家の間で再分類に向けた議論がスタートします。
・2010年代
分類体系の大幅見直しが本格化。次世代シーケンサーの登場などにより遺伝子解析精度が飛躍的に向上し、従来の形態分類に基づく体系が次々と再検証されました。その結果、スズキ目は大幅に縮小し、内部の多くのグループが独立した新たな「目」として再編されます。例えば、スズキ目の亜目だったハゼ亜目はハゼ目(Gobiiformes)として独立し、アジ科を中心とするアジ目(Carangiformes)や、ボラ科を含むボラ目(Mugiliformes)などが新設されました。他にもベラ目(Labriformes)、シクリッド目(Cichliformes)など、多様な新グループが誕生しています。この時期に発表された包括的研究によって、スズキ目の細分化が一気に進みました。
・2020年代(いまここ)
再編の仕上げともいえる劇的な変化が起こりました。ついに「スズキ目の代表」であったはずのスズキ(Lateolabrax属)が、スズキ目から外れる事態となったのです。最新の系統解析により、スズキ科(Lateolabracidae)はホタルジャコ目(Acropomatiformes)に属する可能性が高いと判明し、実際にその方向で分類が見直されています。
一見、スズキとは似ても似つかない魚たちですが、DNAが示す系統関係ではスズキは彼らに近く、逆に従来スズキ目に入っていた他の魚とは大きく離れていた、というわけです。
同時に、これまで独立の目とされてきたカサゴ目など複数のグループが、新しく定義し直されたスズキ目に統合される動きも起きました。例えば、ハタやカサゴといった魚たちは、新たに「パーチ目(Perca)」というグループにまとめられ、再分類されています。要するに、スズキ目そのものの構成が大きく入れ替わったのが2020年代なのです。
最近の動向:「スズキ目」名称消滅の可能性?
こうした大規模な分類変更は、2025年前後に一般向けニュースや業界でも大きく報じられました。釣りニュースサイトでは「魚類最大のグループ『スズキ目』から『スズキ』が脱退?」といった見出しが踊り、ダイビング情報サイトでも生物データベースの分類を最新版に更新する動きが見られています。
分類学的には、スズキ科が抜けた後の新生「スズキ目」を、依然スズキ目と呼ぶのは不適切ではないかという指摘もあります。
学名Perciformesは本来「パーチ型の魚」という意味を持ち、欧米ではperchに由来する名前です。日本ではそれを代表的な海水魚である「スズキ」と訳してきましたが、肝心のスズキがいなくなった以上、名称を見直そうという動きが出るのも自然でしょう。
今後、日本語でもスズキ目は「パーチ目」などと改称される可能性があります。実際、最新の分類を採用しているデータベースでは、「パーチ目(旧スズキ目)」という表記が使われ始めています。
おわりに:分類は変われど魚は変わらない
スズキ目をめぐる分類の再編劇を見てきましたが、いかがでしょうか。確かに分類体系は大きく様変わりし、私たちダイバーが使っていた魚の所属名も、今後アップデートが必要になるかもしれません。
しかし、分類が変わっても、海で出会う魚そのものの魅力が損なわれるわけではありません。目の前のクマノミやハタが、昨日までスズキ目で、今日は別の目だとしても、その美しさや生態の面白さは何一つ変わらないのです。
むしろ、分類の知識は魚たちへの興味や愛着を深めるための、ひとつのきっかけになるかもしれません。なぜあの魚とこの魚が離されたのか、この魚は意外な仲間と近縁なんだ、といった発見が、新しい視点を与えてくれます。
ダイバーにとって大切なのは、分類学の最新知識を暗記することではなく、水中で出会う生き物一匹一匹との出会いを楽しみ、愛着を持つことではないでしょうか。
スズキ目が解体されようとも、私たちの大好きな魚たちが海からいなくなるわけではありません。これからも変化を面白がりつつ、自分なりの魚愛を持って、海の生き物と付き合っていきたいですね。分類が更新されるたびにログブックを書き換える……そんな日も、案外楽しいのかもしれません。

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