昨日アニラオからマニラに戻る車の中で視聴していた動画で、「キョンが増えて困っている」というものがありました。
私は『こまわり君』世代ではないのですが、「八丈島のキョンっ!」というギャグは知っています。キョンは小さなシカっぽい生き物であることは知っていたのですが、フィリピンに以前からいるマメジカと、新札になって登場したシカ(これも小さいっぽいがマメジカでもない)が気になっていて、もしや、キョンなのかも?と思って調べてみました。
フィリピンにもキョンがいて、もしかしてアニラオ界隈にもいたとしたら、八丈島ならぬ、「アニラオのキョン!」って叫べてたりして素敵じゃないですか?
八丈島・伊豆大島・千葉県:キョンを巡る日本の縮図
まずは、キョンが何者だったかから。日本で「キョン」といえば、1970年代の大ヒットギャグ漫画『がきデカ』の「八丈島のキョン!」というフレーズがあまりにも有名です。ですが実は、現在の八丈島には野生のキョンは1頭もいません。かつて漫画の流行で観光客に「キョンはどこ?」と聞かれ続けた島側が、期待に応えて植物公園のケージ内で飼育を始めたのが真相です。

いないものを語感で選択した『がきデカ』作者の山上先生の天才的センスですね。昭和ってナンセンスギャグが流行っていました。ガチョーン。

一方で、本当に野生化の悲劇に直面しているのが伊豆大島と千葉県。
- 伊豆大島(約1.5万頭): 1970年の大型台風で動物園のフェンスが倒壊し脱走。天敵のいない島で爆発的に増加。
- 千葉県(約9.4万頭): 観光施設から逃げ出した数頭を起源に、今や陸続きの関東を北上中。深い里山に潜み、夜間に人間の子どものような悲鳴をあげながら農作物をゲリラ的に食い荒らす最深刻エリアとなっているようです。
柴犬ほどのサイズ(体高40〜50cm)で、1年中いつでも妊娠・出産できる驚異の繁殖力が、この深刻な事態を招いてしまいました。原産地は、もともと中国南東部や台湾に生息する動物です。
ちなみに、中国ではキョンと呼ばれず、「小麂(xiǎo jǐ/シャオジー)」。台湾では、「shān qiāng(シャン・チャン)」。ただし台湾南部で、「kiunn ≒ キウン」と呼ばれていたので、和名がキョンになったのだそうな。
フィリピンにもいる!キョンそっくりの世界最小級「フィリピンマメジカ」
この「小さくてすばしっこいシカ」という特徴、実はここフィリピンに住む私たちにとっても他人事ではない、非常に地理的親和性の高い生き物がいるのをご存知でしょうか。それがパラワン諸島に生息する「フィリピンマメジカ(現地名:ピランドク / Pilandok)」です。

💡 キョンとフィリピンマメジカの驚くべき共通点
キョンとフィリピンマメジカ(ピランドク)を並べてみると、その生態やビジュアルには驚くほどの共通点があります。
- さらにミニサイズ: キョンが柴犬サイズなら、マメジカは「猫サイズ」(体高約18〜40cm、体重わずか2.5kgほど)。世界最小級の偶蹄類です。
- オスにある「長い牙(きば)」: キョンと同様に、マメジカのオスにも上顎に立派な牙が生えていて、縄張り争いや自衛のために使います。
- 爆速の成長スピード: キョンと同じく、マメジカも生後約5ヶ月という驚異的な早さで大人の仲間入り(性成熟)を果たします。
近い種族なの?生物学的なひみつ
これだけそっくりな二匹ですが、実は遺伝的にはかなり遠い存在。キョンは「シカ科」ですが、フィリピンマメジカは独立した「マメジカ科」という、シカやウシの先祖から遥か昔に分岐した極めて原始的なグループ(生きた化石)です。そのためマメジカには、オスであっても「角(つの)」が一生生えません。全く違うルーツの動物が、同じような環境で生きるうちに姿が似ていく「収斂進化(しゅうれんしんか)」の美しい一例ですね。
このピランドク、現地の民話では「知恵の働く賢いキャラクター」として国民に広く親しまれています。しかし、柴犬通り越して、猫サイズのシカだと、なでつけちゃいそうですね。チワワ並ってことですよね。
最新の500ペソ紙幣を飾るもう一頭のシカ「ネグロスヒゲジカ」
フィリピンの通貨とお馴染みのシカといえば、もう一つタイムリーな話題があります。近年導入が進んでいるフィリピンの最新ポリマー(プラスチック)紙幣シリーズの500ペソ札です。その裏面には、新しく「ネグロスヒゲジカ(Visayan Spotted Deer)」が大きく描かれています。

なぜ今、ネグロスヒゲジカが選ばれたのか?
フィリピン中央銀行は、新しい紙幣のデザイン方針をこれまでの「歴史的政治家」から、世界に誇る「豊かな生物多様性と固有種」へと大きくシフトしました。
ネグロスヒゲジカはネグロス島とパナイ島の限られた熱帯雨林にしか生息しておらず、絶滅の危機に瀕している完全な固有種。環境保護の象徴として選ばれただけでなく、非常に鋭い感覚を持って過酷な森を生き抜くことから、国民に求められる「Clarity(明晰さ)」や「Sharpness(的確な判断力)」の象徴という意味も託されています。ぜひシカさんにあやかってもらいたいものです。
| 生き物(地域) | 分類・サイズ | 特徴的な共通点・生態 | 現在の現状と人間との関係 |
|---|---|---|---|
| キョン (日本・千葉/大島) |
シカ科 (柴犬サイズ) |
オスの牙、年中繁殖、驚異的な繁殖スピード | 特定外来生物。爆発的な野生化により深刻な食害・騒音問題に。 |
| フィリピンマメジカ (フィリピン・パラワン) |
マメジカ科 (猫サイズ) |
オスの牙、角なし、生後5ヶ月で性成熟 | 絶滅危惧種。かつて旧硬貨にデザインされたお馴染みの固有種。 |
| ネグロスヒゲジカ (フィリピン・ネグロス) |
シカ科 (中小型サイズ) |
美しい斑点模様、鋭い五感 | 絶滅危惧種。最新の500ペソポリマー紙幣の顔として大抜擢。 |
まとめ:豊かな自然を守り、共生していくために
日本の千葉県や伊豆大島では、人間の都合(観光や災害)で持ち込まれたキョンが爆発的に増え、生態系を脅かす大きな課題となっています。一方で、ここフィリピン固有のマメジカ(ピランドク)やネグロスヒゲジカは、人間による開発や密猟によって絶滅の危機に瀕し、国の象徴として必死に守り伝えられようとしています。
増えすぎて深刻な問題になるケースと、減りすぎて守らなければいけないケース。どちらも「人間と自然の境界線」をどう保つかという、背中合わせの同じテーマを私たちに投げかけてくれている気がします。
海にしろ陸にしろ、人間以外の生物には世知辛い世の中になりつつあり、自然災害が活発化しつつ人口も増えたり、地域によっては支えなければいけない高齢者が増えたりと、人間も大変な世の中です。それぞれの生き物が調和しつつ地球で棲み続けられる知恵が欲しいものです。
あ、ちなみに、調べてみてもアニラオエリアにシカの仲間はいないです。ジャコウネコはたまにいますけどね。
コメント