初心者のダイバーさんからいただく質問に、こういうのがあります。
「ダイビングって、運動になるんですか?」
だいたい2本目が終わって、お昼ごはんの席で出てくる質問です。潜ったあとはお腹がすくし、夜はよく眠れる。だから体を使っている感じはある。確か、以前調べたときには、軽いジョギングくらいのカロリー消費はあったと記憶しています。
でも実際どれくらいなのか、Garminのダイブコンピュータに蓄積していたデータから実際のところを計算し直してみようと思い立ちました。
前回まで水温の話に使っていたダイブコンピュータのデータに、消費カロリーと心拍も残っていました。437本ぶんの実測でやってみます。
出てきた答えは、「運動効果」としてはちょっとがっかりするものでした。アニラオでのダイビング1本で、サンミゲルビール1本分。
ただし、これはあくまで私の数字です。同じ1本でも人によって3倍近く変わる、という話もあとで説明しますね。
まず結論。ベテランだったら1本でビール1本ぶん
ファンダイブ1本(平均50分)の消費カロリーは139kcalでした。サンミゲルビール330ml缶がおよそ140kcalなので、ちょうど1本ぶん。ごはん茶碗1杯(234kcal)にも届きません。
長く潜れば増えます。ただし比例はしません。20~30分の1本が96kcalで、60分以上潜っても158kcal。1分あたりで見ると、短い本ほどよく燃えています。エントリーとエキジット、それに潜降と浮上——動くのは前後だけで、真ん中はほとんど動いていない、ということです。
グラフの濃い色は、陸で寝ていても燃えるぶん(基礎代謝)を引いた「正味」です。50分の1本で72kcalしか残りません。139kcalの半分は、潜っていなくても燃えていた計算になります。(ただし、この139kcalには入っていないものがあります。寒さのぶんです。後半で書きます。)
1日3本潜ると、どうなるか
1本では実感が湧かないので、1日まるごとで比べました。潜らなかった日と、潜った日を並べます。
| その日に潜った本数 | 日数 | 活動カロリー | 潜らない日との差 | 中強度の運動時間 | 歩数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 潜らない日 | 1153日 | 417kcal | — | 7分 | 9,246歩 |
| 1本 | 155日 | 478kcal | +61kcal | 11分 | 9,197歩 |
| 2本 | 82日 | 540kcal | +124kcal | 15分 | 8,237歩 |
| 3本 | 34日 | 696kcal | +280kcal | 24分 | 10,245歩 |
| 4本 | 29日 | 716kcal | +300kcal | 26分 | 10,504歩 |
| 5本 | 11日 | 681kcal | +264kcal | 23分 | 11,087歩 |
潜らない日の活動カロリーが417kcal。3本潜った日が696kcalなので、差は+280kcalです。サンミゲル2本。夕食で1杯多く飲んだら、それで帳消しになります。
では、これは「運動」なのか
カロリーの話はここまでにして、心拍を見ます。運動かどうかは、こちらのほうがはっきりわかります。
ダイビング中の平均心拍は77でした。私の安静時が50、51歳なので最大心拍の目安は169。つまり最大の46%です。
一般に「中強度の有酸素運動」とされるのは、安静時と最大の間を40~59%まで上げた状態。私の場合、心拍でいうと98~120です。77では、まったく届いていません。図の帯の、はるか手前で止まっています。
届くのは1本の中でいちばん上がる瞬間だけ。平均100なので、ようやく帯の入口に指がかかる程度です。エントリー直後や、思ったより流れていたときの数字でしょう。
要するに、アニラオのダイビングは有酸素運動にはなっていない。
一般的なダイビングは、もっと激しい運動とされている
ここで最初に思っていたことに戻ります。世の中の教科書では、ダイビングはまぁまぁな運動に分類されていることです。私のように、お散歩以下というわけではないはずなのです。
運動の強さは「メッツ」という単位で比べます。1メッツが安静時、2メッツならその倍のエネルギーを使っている、という数え方です。この分類の基準になっている『Compendium of Physical Activities』を引くと、スキューバダイビングはこうなっています。
– スキューバダイビング(一般)……7.0メッツ
– 中くらいの努力……5.8メッツ
– 軽めの努力……5.3メッツ
7.0メッツは、ゆっくりのジョギングやテニスと同じ区分です。「軽め」ですら5.3で、早歩きより上。
しかもこれは机上の数字ではありません。2014年に発表された研究では、レクリエーショナルダイビング959本の空気消費量から実際の運動強度を推定していて、平均は5±1メッツ。「7メッツあれば、ほとんどのダイビングをまかなえる」というのが結論でした。ダイビング医学で「ある程度の心肺能力がないと潜ってはいけない」と言われるのは、この数字が根拠です。
では、なぜそんなにメッツ数が上がるのか。理由は水そのものにあります。
水は空気とくらべものにならないほど重い。そこをフィンで進むわけですが、水の抵抗は速さの2乗で増えます。ちょっと急ごうとしただけで、コストは跳ね上がる。さらにジャケットなどの装着器材が抵抗になり、流れがあれば全部そこに乗ってきます。教科書が想定しているのは、こういうダイビングです。カレントの中を移動する。ビーチから器材を背負って歩き、水面を泳いでポイントまで行く。ボートまで水面移動する。などなど。
そして、ダイビング医学が心肺能力を求める本当の理由は、平均ではなく最悪のときにあります。流されたときに泳いで戻れるか。バディを引いて水面移動できるか。そのための余力を持っているか。7.0メッツという数字は、ふだんの1本というより、そういう場面を含んだ数字です。
さて、私の実測は。
| 活動(50分あたり・体重81kg) | メッツ | 消費カロリー | 出どころ |
|---|---|---|---|
| スキューバダイビング(一般) | 7.0 | 471kcal | メッツ表 |
| スキューバダイビング(軽め) | 5.3 | 356kcal | メッツ表 |
| レクリエーショナルダイビング | 5.0 | 336kcal | 実測研究(959本の平均) |
| ふつうに歩く(時速4km) | 3.0 | 202kcal | メッツ表 |
| アニラオでの私の1本 | 2.1 | 139kcal | 437本の実測 |
| 立ち仕事 | 2.0 | 134kcal | メッツ表 |
2.1メッツでした。教科書の3分の1以下。立ち仕事とほぼ同じで、ふつうに歩くより下です。
この差は、私の体力の話ではありません。潜り方の違いだと思います。
アニラオはマクロの海です。小さなウミウシなどの生き物を探して、見つけたら止まる。ゲストが撮り終わるのを待つ。ボートは真上にある状態で浮上するのがほとんどで、水面移動もほぼありません。流れの強いポイントは、強いて選ばないようになってきています。いかに無駄に動かずに潜るかが技術になっているのが、この海の、特に写真をとる方の潜り方です。
つまり「ダイビングは運動になるか」への答えは、教科書のダイビングでは「運動」です。アニラオの小さな生物を観察するタイプのダイビングでは、また、少なくとも私にとっては、そうではなかったみたい。腹だけ減って、カロリー消費にはならない。だからこの体系か。。
「私にとっては」と書いたのには、理由があります。
これを書いている前の日に、こんな1本がありました。
オープンウォーターの講習中のお二人と、経験60本ほどの60代の男性をお連れして、最大18.5m、28分。ごくふつうの1本です。上がってから、みんなでタンクの残圧を見比べました。
| 同じ1本(28分・最大18.5m・平均7.5m) | 使った空気 | 私の何倍 | 1分あたりの呼吸量 (水面に換算) |
消費カロリーの目安 |
|---|---|---|---|---|
| 私(ガイド歴20年) | 50気圧 | 1.0倍 | 11L | 67kcal |
| 若い初学者(講習中) | 70気圧 | 1.4倍 | 16L | 94kcal |
| 60代・経験60本 | 80気圧 | 1.6倍 | 18L | 107kcal |
| 50代の初学者(講習中) | 140気圧 | 2.8倍 | 32L | 188kcal |
同じ海、同じ深さ、同じ時間です。それでも、いちばん使った方と私とで2.8倍の差がつきました。
空気の減り方は、そのまま呼吸量です。そして呼吸量は、体がどれだけ酸素を使ったか——つまりどれだけエネルギーを使ったかの目安になります。さきほど引いた959本の研究も、まさにこの空気消費量から運動強度を推定していました。
そのものさしを当ててみます。この1本での私は**1.8メッツ。2.8倍使った方は、5.0メッツあたりです。
959本の研究が出した平均は、5±1メッツでした。ぴたりと重なります。
教科書は、間違っていなかったんです。教科書が測っていたのは私ではなく、普通のダイバーの1本でした。
では、何がこの差を作るのか。私は2つだと思っています。フィンキックが効率的であることと、無駄な動きと力みがないこと。
ダイビングを始めたばかりのころは、進もうとして脚を速く動かします。ところが水の抵抗は速さの2乗で増えるので、急ぐほど損をする。中性浮力が決まっていなければ、沈まないため無駄な蹴りも多い。さらに緊張のためにどこかへずっと力が入っている。慣れていないので手もバタバタ動きます。その全部が、空気の減りにつながっていきます。
20年以上のダイビング経験をかけて変わったのは、体力ではありません。「やらなくていいことを、高度にやらなくなっただけ」でした。
ですから、この記事の私の実測から導き出した、1ダイブ=139kcalは、多くのダイバーにとっては小さすぎる見積もりだと言えそうです。もしくは、目指すべき目標なのかもしれません。
上達するほど、ダイビングは運動でなくなっていく、というのは運動という観点では良し悪しですが、水中散歩という観点では、全くもって当然目指すべき位置なのかもしれません。うまくなるということの一つの側面は、水中で楽をする技術を覚えることです。
いちばん心拍が下がるのは、ブラックウォーターダイブ
夜のダイビングはさらに消費カロリーが下がることがわかりました。ここでいう夜のダイビングの多くは、浮遊系ダイビング、いわゆるブラックウォーターダイビングです。
| 時間帯 | 本数 | 1本の長さ | 消費カロリー | 平均心拍 | 平均水深 |
|---|---|---|---|---|---|
| 午前(5〜10時) | 148本 | 46分 | 130kcal | 78 | 8.5m |
| 昼(11〜14時) | 164本 | 48分 | 145kcal | 79 | 9.0m |
| 夕方(15〜18時) | 58本 | 47分 | 129kcal | 77 | 6.4m |
| ナイト(19時〜) | 67本 | 66分 | 152kcal | 72 | 6.6m |
19時以降の67本——ほとんどがブラックウォーターです——を見ると、平均心拍が**72**まで落ちています。最大心拍の42%。日中より、さらに5拍低い。
中層に浮かんで、ライトの中に流れてくるものを待つ。深度は平均6.6mで、アイドル級が出ない限りはダッシュもしない。心拍だけ見れば、椅子に座って本を読んでいるのとほとんど変わりません。なんということ。
そのくせ消費カロリーは152kcalで、全時間帯のトップです。理由は単純で、1本が66分といちばん長いから。動いていないぶんを、時間で稼いでいる格好です。単位時間あたりの消費は少ないです。
ただし、この139kcalには入っていないものがある
ここまで自分で出した数字を並べておいて言うのも何ですが、この139kcalは、たぶん少なめに出ています。「寒さのぶん」が入っていないからです。
20年潜ってきて、ずっと感じてきたことがあります。水が冷たい時期ほど、上がってきた直後に炭水化物が食べたくなる。脂っこいものでも肉でもなく、ごはんやパン。あの、すぐエネルギーになるものを体が要求してくる感じです。夏場はここまでではありません。
体感の話なので、データで裏を取ろうと思いました。1~3月(水温26℃前後)と5~8月(29℃台)で、同じ長さの1本を比べます。
| 時期(45〜60分の本だけで比較) | 本数 | 平均水温 | 1本の消費 | 1分あたり | 平均心拍 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1〜3月(いちばん冷える) | 29本 | 25.9℃ | 135kcal | 2.67kcal | 75 |
| 5〜8月(いちばん温かい) | 60本 | 29.2℃ | 144kcal | 2.69kcal | 75 |
まったく同じでした。水温3℃以上違うのに、1分あたりの消費は2.67kcalと2.69kcal。心拍にいたっては両方とも75。水温と消費カロリーの相関を取っても、ほぼゼロ(r=−0.008)です。
体感が外れていた——とは思いませんでした。むしろ、時計に見えていないだけだと考えるべきじゃないでしょうか。
理由ははっきりしています。ガーミンは心拍からカロリーを推定しているからです。ところが、寒いときに体が熱を作る仕組み——筋肉を小刻みに動かす「ふるえ熱産生」と、震えずに熱を出す仕組み——は、心拍をほとんど上げません。心臓の回転数は上がらないまま、筋肉が勝手に燃えている状態です。心拍を見ているセンサーには、原理的に見えないところです。
裏づけになる研究があります。5℃の海に6時間潜った軍のダイバーを調べたものです。潜っている間の彼らの心拍は、平均81。私のアニラオでの77と、ほとんど変わりません。ところが上がってきた直後の代謝は、潜る前より53%高いままでした。1本で1,200kcal以上を使っていた計算になります。
心拍は平然としているのに、代謝は5割増し。心拍から推定する方式では、この差は絶対に拾えません。
そして、炭水化物が食べたくなる理由も分かりました。震えて熱を作るとき、体がまっさきに燃やすのは糖質です。しかも血中の糖よりも、筋肉に蓄えたグリコーゲンを優先して使う。研究では、震えているあいだに燃やされた糖質の75~80%が筋グリコーゲンだったと報告されています。先ほどの軍のダイバーも、上がった直後のエネルギーの57.5%を糖質でまかなっていました。
つまり、冷たい海から上がってごはんが欲しくなるのは、筋肉の中の糖質在庫が減っているからです。気のせいでも意志の弱さでも、ただの食いしん坊でもありません。
もちろん、一番下っても25度程度のアニラオの海と軍人さんが潜った5℃の海は別物です。うちの海で震えるほど冷えることは、あまりありません。それでも26℃は体温より11℃低く、水は空気の20倍以上の速さで熱を奪っていきます。60分、ほとんど動かずに水中にいたとして、そのあいだ体は静かに熱を作り続けていて、その燃料代は、腕のダイコンの139kcalには全く計上されていません。
前回、水温の記事でこう書きました——体感が「おかしい」と言っているときは、たいてい体感のほうが正しい。またそれでした。
それでも、時計は「潜った日」を見分けている
ここまで「運動ではない」と書いてきましたが、ダイコンの判定を見ると、話はもう少し複雑でした。
ガーミンには「運動不足(DETRAINING)」という、なかなか失礼な判定があります。潜らなかった日の4日に1日が、これでした。
いっぽう、潜った日にこれを言われたのは、4年間で1日だけです。
中強度の運動時間も、潜らない日の7分に対して、3本潜る日は24分。WHOがすすめる週150分は、3本潜る日が週5日あれば足ります。
つまりダイビングは、鍛えてはくれないけれど、鈍らせもしない。トレーニングにはならないが、運動不足からは救ってくれる。50代の日常としては、悪くない習慣といったところでしょうか。
ゲストの皆さんへ、実用の話
ここまで数字を追ってきました。まとめとして4つ書いておきます。
ダイエット目的で潜るものではないです
1日3本で+280kcal。滞在中の食事とサンミゲルを考えたら、まず勝てません。ただしこれは私の数字です。初めての方なら倍以上——それでも、軽いジョギング程度の運動量です。痩せたいのなら、摂取カロリーを気にしたほうが良策です。上級者になればなるほど、「痩せ」は期待できません。ブヒ。
初心者だと2〜3倍はカロリーを使う、ジョギング程度の運動です。1ダイブでビール2本か3本飲んでも大丈夫(^o^)
でも、程よく疲れます
これは間違いない。カロリーではなく、器材の重さ、ボートの揺れ、水圧、体温を奪われること、そして緊張。数字に出ない疲れのほうが本体です。その結果か、ダイビングの後はよく眠れますよね。
だから、食事は減らさなくてよいです
潜る日にお腹が減るのは、体が正直だからです。カロリーは大した量ではありませんが、朝を抜いて3本潜るのは、単純に危ない。しっかり食べて、しっかり潜って、しっかり寝るのがいちばんです。なんか、人生を謳歌しているようで最高じゃないですか?
冬に潜るなら、炭水化物は大切
1~3月は水温が26℃前後まで下がります。体を温めるのに使われるのは、まず筋肉の中の糖です。朝ごはんをしっかり食べて、ダイビングの合間にもバナナや甘いものを一口(ボートの上のおやつ、私は食べませんが、役立ってる!)。
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